東京のたい焼き ほぼ百匹手帖

2015年02月28日

たい焼き 速吸瀬戸【戸越@都営浅草線】

     
 
たい焼きを買いに戸越に来た。

A2出口を出たら第二京浜を右に進むと戸越銀座の交差点。
右折して商店街を進んだ二つ目の十字路の手前辺りに、
一丁焼きの店「たい焼き 速吸瀬戸」があるハズである。

到着した該当地には黒い軒とサッドベージュの壁の店舗があり、
壁には木枠のガラス窓が一つ嵌め込まれ、
上の端っこに貼られた紙には一丁焼きで粒餡のみで、
一尾150円である事の告知がなされている。
対する下の端っこには“準備中”の札が立て掛けられて、
窓の下には木造の縁台が一つ。
ガラス窓の横には同様な色合いで左右幅違いの両開き扉があり、
入り口前の軒からはたい焼き的なオブジェが吊るされている。
その下辺りに三角の立て看板が置かれ片面には張り紙と同じ内容、
対して裏面にはたい焼きの原材料表記がされている。
そんな簡素な店先を結構入念に見回してみるが
どんだけ見直しても店舗自体の情報が見当らない。

よくある何某かのポスターや店舗からの告知の類はおろか、
店名を表記した表札的な記載物すら見当たらない。
看板かと思って近づいたら換気口だったりするこの店で、
一番目立つのは店頭にはためく赤い幟に記された、
白い“たいやき”の文字だったりするのである。

そこでふと思い至る。
今や世はインターネット時代であり検索サイトを駆使すれば、
一丁焼きで提供する気鋭のたい焼き屋の等の情報位、
ローカル情報紙辺りの記事を雑作も無く見つけ出す世の中である。
そこから戸越銀座商店街のホームページに飛べば、
地図と共に店名まで表記されている訳である。
つまり今の時代は店頭に看板が無くても瞬く間に口コミは伝播し、
営業時間をわざわざ貼り出さなくとも開店前に客が来るのである。
そしてそんな今風な宣伝戦略にまんまと乗ってやって来た客は、
向かいの本屋で今か今かと店先を窺いながら、
窓に立て掛けられた札が“営業中”になったのを見計らって、
行き交う配達の車を華麗に避けながら小躍りで店舗へ赴くのである。

勇んで店の中へ一歩踏み入ると和帽子に前掛け姿の御店主が、
一人厨房で焼き台の前に立ちガラガラと焼き型を動かしながら、
時折頬に近づけ入念に焼き型のウォームアップの真っ最中。
早速注文をお願いすると少々時間が掛かる事で、
即座に承諾後お掛けになってお持ちくださいと店内へ促られる。

従って進んだ細長い店の奥は店頭同様のサンドベージュの壁に、
硬質な二つの扉と縁台が一台置かれただけの店頭を凌ぐ簡素さ。
客と厨房を隔てる壁に開いた仕切り窓には持ち帰り用の箱が積まれ、
その先にある会計口カウンターには会計トレーが置かれ、
間にある柱にはカレンダーが掛かっているのみ。
そして当然壁には何某かのポスター等は一切張られていない。
その簡素さは壁を隔てた厨房も同様ではあるが、
そもそも扱っているのが粒餡のたい焼き一品と云う事に加え、
焼き台も比較的小さな造りで済む一丁焼きなので、
厨房内は必要最小限で極めて簡潔に纏まっている。

ココまで簡素な店も珍しいが、
近年は中身のバリエーション増加や夏季営業対策の影響で、
巷のドラッグストアかディスカウントショップの様に、
店内が告知で溢れる傾向のたい焼き屋の現状を思い返しながらも、
もしやこれは店主自体の性質が強く反映されたモノであり、
恐らくこれから年数を重ねても店内は簡潔に保たれるかもしれない。
そんな考えを頭の中でグルグル巡らせながら、
唯一店内に情報を与えるラジオと頻繁に鳴り響く焼き型の、
ガッチャンガッチャンという衝突音の中でぼんやりと、
外を行き交う人々を暗がりの店内から眺める。

いくら人通りの多い商店街でも平日の昼食前、
いきなりたい焼きを買いに来る客は、
全国に名を馳せる戸越銀座商店街でもそうは居ない訳で、
待つ間に来店どころか店内を覗いていく人すら現われずに、
終ぞ独りポツンと縁台で簡素な店内で必死に情報収集する事数分、
壁が少々斜めになっていている事実に直面した頃、
お待ちどう様でしたと声を掛けられる。

たい焼きが入った袋を受け取り代金の支払いを済ませ、
店主に礼を述べ会計口に置かれた焼き型に目礼をした後、
荷下ろしのトラックでごった返す商店街へと踏み出す。
商店街を進み少し先にある戸越銀座温泉脇の公園に陣取り、
散歩中の犬と飼い主の視線を横目に荷を解く。

開いた箱から立ち昇る湯気と共に鼻を擽る経木の香りと、
一丁焼き独特の甘く芳ばしい香りが周囲を取り巻く。
すかさず反応してコチラを振り返る犬。
そんな野生の本能に感心しながら取り出すコチラのたい焼きは、
その姿たるや当に王道の一丁焼きそのものである。
木工細工の様な風合いと竜山石を髣髴とさせる表面の質感と、
扁平した胴の厚みとソコから伸びて光沢を湛えた焦げたバリ。
鱗ごとに焼き目が付いたその効果的色合いとか、
指で押すとグニュリと不凍液の氷枕の様に内部を流動して、
頻りに自己主張をしてくる柔らかな餡の存在感。
その全てが一丁焼き然としたたい焼きである。

一口齧ると薄い皮はシクッとした歯応えとモッチリした食感で、
噛み千切ればブチリとした感触で千切れる程にコシが強い。
皮の縁にしがみ付いていたバリがその余波を受けて、
口角の辺りでパキパキと音を発して砕けて行く。
もう2〜3分置けば皮の表面もパリパリになるだろう。
そんな皮に守られた餡はユルユルとした質感で口に蕩け出てくる。
アズキの風味満載でありながらアズキが持つ強いクセが少なく、
甘味も抑えめでアズキの種皮も柔らかく、
舌の上を流れる柔らかな口当たりで、
老舗に見られる全てを封じ込めた強い粒餡の、
少々取っ付きにくい所を抑えた実にスマートな粒餡という印象。

焼き方や皮や餡は言うに及ばず、
店の雰囲気や箱に添えられた経木などの小技に至るまで、
随所に脈づく東京の一丁焼きたい焼きの集大成的たい焼きは、
犬の視線を釘づけにしてしまう程の破壊力を持つ。

店名の「速吸瀬戸」こと豊予海峡は全国的には、
あの全国の魚通を虜にする“関サバ”や“関アジ”で有名な場所。
ソコに今後は戸越銀座産の“関タイ”が加わり、
都内に数多存在するたい焼き通を唸らせる存在となる。
そんな未来はそう遠く無いなと感じながら、
相変わらずコチラを微動だにせず睨め付ける犬の視線を、
わざわざ挑発する様に二尾目の“関タイ”を取り出して、
陽射し溢れる公園のベンチで齧り付いてみる。

価   格○たい焼き 150円
住   所○東京都品川区戸越1-16-8
営業時間○11:00〜18:00
       月曜 定休
 
   
  

posted by EY at 00:33| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 品川区のたい焼き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年02月01日

一口茶屋 調布北口店【調布@京王線】

     
 
たい焼きを買いに調布に来た。

広場口から地上に出て駅北口のロータリを右手から沿って進み、
旧甲州街道とぶつかる調布駅北口交差点へ向かえば、
その道すがらに「一口茶屋 調布北口店」はある。

地下に駅を埋没させた事によりかつての駅舎周辺は閑散として、
何処を見渡しても建材と建設機械が目に入る景観となり、
白い防護シートと青い空のコントラストが殊更に映えるばかりの、
まさに郊外新興住宅地の中心となる私鉄駅周辺然としていた。

その開拓が進む旧駅舎周辺からかつての駅北口に目を移すと、
駅舎という芯を失って何処か所在無さ気な商業施設が、
ロータリーから甲州街道まで道沿いに連なり通風路を形成する。
何時まで経ってもデコボコの路面に出てバス停留所を迂回して、
ロータリーに沿って進む先は陽射しが届かない細い歩道。
美容院の立て看板が強風で煽られ不動産屋の幟が荒ぶる中、
目的地である「一口茶屋 調布北口店」は外の空模様を窺う様に、
開店時間までの5分余りを半分だけシャッターを開けて佇んでいる。

記憶を辿れば或る飲食店が突如閉店したと思ったら、
すぐさま開店していたという印象があり、
以来今日に至るまで営業を続けている駅前では古参な店舗である。
なので店の造りは可也年季が入っていて、
窓枠のサッシには多種多様の傷や汚れがこびり付いている。
ソコに「一口茶屋」のまるでクリーニング店の様な青い看板が、
更にビルの壁面に溶け込みながら店舗の軒に掲げている。

隙間から見える保温ケースには既に数尾のたい焼きが整列済みで、
奥からはソースの焦げた様な芳ばしい香りが漂ってくる。
あと5分ばかりなら店の前で待つのが通常なのだが、
あいにく「一口茶屋 調布北口店」の面する歩道は、
路線バス2社の執着降車所が縦列で並び、
時間帯によっては朝夕の羽田空港張りに次々離発車を繰り返す。
そして下車する大量の乗客が降り立つ歩道は立錐の余地も無く、
そこでボケッと只突っ立っているのは迷惑の極みである。

なので少々離れた死角に入って待っていると、
轟音と共に店のシャッターが開け放たれて中から店員さんが現れる。
抱えた縁台を店の前に設えて開店準備は完了の様子で、
いざ青い看板の元へと駆けつけようと歩を進めると、
その傍を掠め進む自転車が一台。
降車所のガードレールに横付けしておじさんが店頭に立ちつくし、
店員さんと数度会話を交わした後腕を組んで考え込み始める。
その脇を抜けて店頭に立ち路面の保温ケース内を再度確認、
状況を把握して店員さんに注文をしようとしたらおじさんが動いた。

モダン焼き3枚。

そう言うとおじさんは再び腕組みで店頭を睨みながら立ちつくす。
次いで注文をしようとするが開店直後の品薄状態に加えて、
今現在店内には手に沢山の火傷痕や切り傷を残す店員さん只一人。
店内を右往左往しながら頻発するアラーム音に急き立てらつつも、
ここは涼しい顔でクールに作業を熟す店員さんの、
静かなる奮闘をジッと見守り待つ事にする。

やがて3枚のモダン焼きを受け取りおじさんは再び自転車に跨り、
狭い歩道に溢れる降車客の間を華麗に摺り抜け去って行く。
その背中を眺めながら店員さんに注文をお願いして、
品数が揃うまで渡された番号札1番を握りしめて、
店の横の通用口前に佇み日陰の歩道で一人待つ。

一階に八百屋を構えたデパートを眺め待つ傍を強風が吹き抜ける。
隔てる物が無くなった“ぽっぺん”の様な立地を、
ビル風が勢いを増してビュウビュウと加速を増して流れて行く。
女学生の一団は強風に煽られたコートの裾を抑え、
野球少年は帽子を目深に被りながらバットケースを押さえ付け、
老夫婦は頭髪を抑えながらお互いを支えあい、
保温ケース前でカップルが立ち止まりしばし相談の後、
“ハムマヨネーズたい焼き”を一つ購入して去って行き、
そんな光景をたい焼き屋の脇で細かく足踏みしながら眺め、
叩きつけるような酷寒の強風に身を晒しながら考えていると、
やがてそれら全てがぼんやりと目に映って若干眠たくなる。
思いもよらぬ雪山体験にこのまま身を委ねてみようかと思った矢先、

たい焼きお待ちどう様でした。

という店員さんの呼び掛ける声で意識を取り戻し、
何事も無かった様に商品を受け取り青に包まれた店を後にする。

目指すは陽の当たる温かな場所一択。
悴む指に伝わる仄かな温かさだけを拠り所に彷徨う駅周辺は、
驚く程に陽が射す場所が少なく身体の真に底冷えを及ぼす。
漸く辿り着いた日向の駐車場で矢も楯も堪らず取り出すたい焼きは、
立ち昇らせる湯気を強風に掻き消され急速に冷やされる。
早いとこ食べねばと急く気持ちの前にたちはだかる羽根の存在が、
こんな時には大層恨めしく感じられるのも人間だもの致し方ナシ。

とはいってもこのサクサクとした軽やかな歯応えと、
場所によって甘味をタップリと放出する箇所と、
少々焼きが進んで苦味ばしってオトナの味の箇所が混在して、
バラエティーに富んだカラフルな羽根を疎かに扱う事は出来ない。

そんなサクサクの歯応えの一方で、
その対極にある様な皮の仕上がりはシッカリと焼き目が付けられ、
表面のカリカリした所は薄く其れ以外を占める大半の部分は、
白くて厚いフワフワした焼き上がりの皮となって形成されている。
その風味は至ってニュートラルな立ち位置で突出した個性は無く、
周囲を取り囲む羽根が発現する極彩色の根底を支えている。

そんな舞台を整えられて登場する餡はベタリと甘く粘度も高い。
緩くシットリした炊き上がりのテカテカした光沢は、
その糖度を誇示する様に暫くの間口内に留まり、
嚥下の度に餡の香りと甘味の記憶を呼び覚ます。
考え様によっちゃ大変コストパフォーマンスの高い餡と云える。

寒風の中にあっても熱を失わない灼熱の粒餡を啜りながらも、
次第に温もりを失っていくたい焼きを早急に食べ進める。
この周囲に張り巡らした立派な羽根の存在が、
逆にたい焼きの急速に冷やしていってしまう諸刃の剣となる。
何かを成し得る為には目を瞑らなければならないと、
今頃になってオトナの階段をまた一つのぼった、
強風吹き荒ぶ冬の朝だった。

価   格○小倉 120円
住   所○東京都調布市布田1-37 調布駅前ビル1階
営業時間○10:00〜21:00
       不定休
 
   
  

posted by EY at 22:20| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 調布市のたい焼き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。