東京のたい焼き ほぼ百匹手帖

2016年03月27日

たいやきや【氷川台@東京メトロ有楽町線】

     
 
たい焼きを買いに氷川台に来た。

2番出口から出て都道441号線にそって右へ進み、
石神井川にかかる正久保橋を渡る。
桜商友会の道を真っ直ぐ進み信号の十字路を越えたら、
やがて右手には農協の建物が見えてくる。
その道を挟んだ反対側にある左折路の角に、
たい焼きを焼いている店舗が営業している。

T字路角に設けられた柿色の店舗正面には、
壁の中央にアルミサッシのガラス引き戸がある。
その頭上に設けられた舛花色のテントに、
店名や電話番号などの記載は無い。
とは言え壁に貼られたパネルに記された、
“たいやきや”の赤い文字を見れば、
この店舗がたい焼き屋なのは判るので問題無いだろう。

アルミサッシのガラスには“京おぐら”と“うふクリーム”、
それと“気まぐれたいやき”の品ぞろえがある事や、
更にはドリンク類の販売もされているのが判る。
その前に置かれた椅子にはパネルが置かれ、
アニメキャラが懇切丁寧な解説をしている。
加えて扉を挟んだ反対側の壁に貼られたパネルにも、
持ち帰り専門店である事と営業日時が記され、
その横には“営業中”のプレートもある。

開かれたアルミの引き戸からスルリと入った店内は、
白い壁に大理石調の腰壁がグルリと囲む。
垂直に仕切れた販売スペースには丸椅子が置かれ、
正面にはカウンター付きの会計口が設けられている。
会計口横には三段棚の保温ケースがあり、
銀のトレーに置かれたスタンドには数匹のたい焼きが並ぶ。
少しして窓口にやって来た店員さんは、
赤い帽子と白い上着のパティシエ風の装いである。
先ずは注文を済ませて商品が揃う間に店内をグルリと見渡す。

壁の上部には額装された商売繁盛の象徴、
お馴染み仙台太郎さんが腕を組んで微笑んでいる。
その下では腰壁の大理石の上には黒猫が行列を作り、
猫の頭の上に空いた窓の先には6連式の焼き型が3台並ぶ。
焼き型に置かれた木の板には焼き上がったたい焼きが乗せられ、
保温ケースに並ぶ時をジッと待っている。
一方端で閉じられた焼き型からは仄かに湯気が上がり、
やがて完成を告げるアラーム音が店内に響き渡る。
その奥には広く取られた調理場があり、
アラーム音に呼ばれた店員さんが焼き型を開け放つ。

気が付けば背後には列が出来始め賑やかになり始める。
後ろの親子は“気まぐれたいやき”がお目当てとの事で、
不意に店員さんに“気まぐれたいやき”について尋ねると、
本日は“たこ焼きたい焼き”になっているとのご返答を頂く。
改めて注視した壁には再加熱の方法や営業日時を始め、
アニメキャラが解説する手書きの商品説明が貼られている。
そこに記された“気まぐれたいやき”の気まぐれを司るのは、
こしあんやチョコレートといった甘味から、
キーマカレーやベーコンといった食事系に至るまで多種多様である。
そうして眺めた張り紙の右下にある住所に併せて記された、
「たいやきや」との黒い文字に目が留まる。

それはどう見ても判子である。
そしてその光景を注視して漸く理解する。
店頭に貼られたパネルの「たいやきや」の表記は、
所謂“業種”の説明では無くこの店舗の“屋号”其の物のようだ。
つまりこの店の名前はズバリ「たいやきや」という事なのである。
此れは目から鱗のネーミングセンスである。
今の所は氷川台でたい焼き屋といえばコチラだけであり、
一番乗りが名乗れる特権がある実に判り易い店名である。
此れは当に早い者勝ちであり発想の勝利ではないか。

そんな事を感心しているとカウンターは次々紙袋が並び、
そして最後の一匹を詰め終えた店員さんから声を掛けられる。
代金の支払いを済ませ袋を受け取ってから礼を述べ、
掛け込む様に入店する子供と入れ替えで店を出る。

桜台三丁目交差点を渡り農協の園芸センターに向かい、
敷地の隅に置かれたベンチに陣取って荷を解く。
手に取ろうと触れたたい焼きの表面は、
直ぐにカリカリの感触を伝えて来る。
指先どころか爪先から既に乾いた硬い質感が判る。
その手に絡まる様に立ち昇って来るほんのり甘く、
芳ばしさが満載の香りが顔を優しく撫でる。
改めて指先でたい焼きを確保するが、
皮は少しも窪む事無くシッカリとたい焼きを保持している。
試しにたい焼きの周囲に所々出来ているバリを摘まむが、
折れるどころかビクともしない硬さを発揮している。
なので無理矢理折ってみるが、
バキッとたい焼きの皮では在り得ない音を発てるのだ。

先ずはその折れたバリを口に放り込む。
奥歯で砕くとゴリゴリ硬質な音を奏で強固な歯応えを生む。
焼き固められて芳ばしさが高まった生地の香りは、
口内で増幅され鼻腔を抜けてやがて外気と交わり消えて行く。
勢いに乗って頭から噛り付くと、
たい焼きの全身からはガリガリと硬い物同士が擦れ合う音が響く。
たい焼きの皮から剥離した細かい粉が舞い、
中空でキラキラ輝いた後に胸元へ降り積もる。
そのまま力を込めてザクッ皮を突破した後に、
口内へゴロリと転がり込んだ奴を一斉に噛み砕く。

サクサクと軽快な歯応えで芳ばしさを放つ表面と、
柔らかくモチモチした食感を発揮する内側の生地が入り混じる。
ほんのり漂う甘味と焼き上げられた豊潤な粉の風味を湛え、
圧倒的な歯応えと存分な食べ応えを発揮する皮は、
其れ自体で既に立派な焼き菓子といえる出来栄えである。

其処に以て“京おぐら”と称された抑えた甘味の餡子が絡む。
水気が豊富で滑らかな舌触りに仕上がった粒餡は、
アズキの粒立ちも良く風味も強い。
特にアズキの粒は姿を保ったままで餡子の中を揺蕩い、
其れが潰れる度に優しいアズキの風味が発散される。
当然後味もしつこく残る様な事は無くサッパリと潔い。

硬い皮をガリガリ砕いた後に優しい餡子が絡まる。
其れを何度も繰り返してたい焼き最硬部の尻尾まで到達し、
仕上げとばかりに勢い良く豪快に噛み砕くと周囲の人が振り返る。
続けふっくらと恰幅の良いたい焼きを手に取り、
再び頭から豪快に音を発てて噛り付く。
視線の先には人集りが出来始めた「たいやきや」がある。
氷川台の農協前という人が集まる格好の立地にあるし、
地域密着型の店舗となれば屋号はコレだけで事足りる。
近所の子供達が向かう地域に唯一のたい焼き屋の、
名前がズバリ「たいやきや」という無駄の無さ。
いやホント実に判り易い良い名前である。


価   格○京おぐら 130円
住   所○東京都練馬区桜台3-14-13-1F
営業時間○土日祝 11:00〜17:00
       水木金 13:00〜17:00
       月・火曜(祝日を除く) 定休
 
   
  

posted by EY at 23:57| 東京 ☁ | TrackBack(0) | 練馬区のたい焼き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年03月06日

瀬田商【神泉@期間限定】

     
 

たい焼きを買いに神泉に来た。


北口駅前から踏切を越えて伸びる道を左へ進み、
大通りに出たら右へ進むと東急百貨店本店に着く。
その地下一階食品フロアの一画に、
期間限定で「瀬田商」が出店していた。


渋谷の繁華街から少し離れた場所に聳え立つ、
老舗百貨店の地下一階の食料品売り場は、
開店直後と云う事もあり何時にも増して閑静である。
日本中の有名専門店はゆったりとした空間に並び、
松濤や神山町に建つ高級住宅街のニーズに合った、
厳選された商品がふんだんに揃っている。
故に東横店に比べてそこはかとなく高級感があり、
観光客を購買層に含まない腰を据えた風格を醸し出す。


そこに突如現れた庶民菓子の代表であるたい焼きは、
高級なチョコレートやワインが並ぶフロアの片隅で、
甘くて芳ばしい香りをゆったり漂わせている。
その香りは人々の足を止めさせる魅力を振り撒き、
その姿で買い物客の目を釘付けにする。


その魅惑のお菓子を焼き上げている「瀬田商」は、
頻繁に催事やイベント等で期間出店を行うたい焼き屋で、
今回はかつてテレビでも取り上げられた逸品を引っ提げ、
この渋谷に地へやって来たという訳である。
東京近郊では埼玉県草加市の駅ビル等で購入できるが、
ここ東急百貨店本店にも度々現れては、
人々を魅了するたい焼きを販売してくれる。


地下一階イベントコーナー一杯に展開した店舗ブースは、
2尾の鯛が跳ねる赤い横断幕を纏った卓を設えて、
簾敷きの会計口を挟んで餅菓子とたい焼きが並んでいる。
餡子や黄粉を纏ったおはぎや団子といった餅菓子は、
プラスチックパックの中に並び堆く積まれ販売されている。
一方でたい焼きは古びの効いた木製の囲いに3種類、
その横に並べられたアクリルケースには1種類と、
計4種類の餡がそれぞれ木箱の中に起立姿勢で、
隊列を作り並んでいるのが見える。
定番の“つぶあん”とその双璧を成す“クリーム”の他に、
その2つが合わさった“ミックス”という餡は想定できた。
しかし期間限定で“いちごミルク”という餡は、
中々冒険心が溢れる攻めた打ち出しである。


卓の横には焼き台を設えたブースが置かれ、
赤い暖簾が掛かる向こうでは6連式の焼き型が3台並ぶ。
焼き台には半身のたい焼きに背骨の様な餡子が乗り、
今も甘く芳ばしい香りを放ち周辺を満たしている。
その奥で黒いキャップとエプロンのご店主が、
焼き台に乗ったたい焼きの焼き上がりに視線を注いでいる。


焼き型が並ぶブースの前でその様を眺め、
横目で焼き上がったたい焼きの様子を見比べる。
木箱の中は十分な品揃えである。
焼き型が閉じられたのを確認してから会計口へ向かと、
焼き場から手を休めたご店主が此方へやって来た。
たい焼きの購入を告げるとご店主は箱を用意して、
起立姿のたい焼きをそのまま箱へと詰めはじめる。
箱の中でも直立するたい焼き達の背中を確認後は、
壁に貼られた各種パネルを眺めてしばしの時を過ごす。


たい焼きを詰め終えた箱を会計口に置いて、
代金を支払い終えたらズシリと重い箱を受け取る。
ご店主の笑顔に送られ店舗前から移動すると、
階段へ至る廊下に置かれたベンチに陣取り荷を解く。


箱を開けると俯瞰視点で見えるたい焼きの姿は、
皆が皆そろって此方に背を向けている。
そこに御誂え向きに差し出された背びれを摘まむと、
指先は皮の中へと埋まりピッタリと密着する。
そのまま待ち上げると背びれが千切れそうで、
急遽左手を整列の間へ差し入れてアシストを始める。


柔らかい。
たい焼きの表面に触れた左手を皮が包み、
そのままたい焼きの内部へ沈下を始める。
慎重に持ち上げて改めて手に取るたい焼きは、
柔らかく波打って指先にシットリ貼り付く。
特に腹の部分は中の餡子がフニフニと流動して、
驚きの触感を発揮してくれる。


一口噛り付くと皮はふっくらと優しい食感で、
焼き目からは甘く芳ばしい香りが漂う。
モチモチに仕上がった表面に対する内側は、
更に柔らかくフルフルの舌触りを発揮する。
生地本来の風味であろう玉子のまろやかさと、
粉の酸味が仄かに舌を包み込む。
比較的焼き固まった鰭の角はワッフルを髣髴とさせ、
また違った歯応えを生み出し楽しませてくれる。
皮自体は薄いので少し齧れば中からは、
大量に入った餡子が満を持して解放される。


シッカリと甘味がのった粒餡は柔らかく、
滑らかな舌触りは漉し餡の域へ踏み込んでいる。
アズキの風味も濃く懐かしさも湛えた王道の仕上がりだ。
その滑らかな餡子が柔らかな皮と絡み合うと、
トロトロでアツアツの口当たりになる。
そのまま飲み物の様にゴクリと飲み込めば、
胃の底から暖かくなり軌跡からは甘い香りが漂う。


最近の皮を巡る環境は“薄い”と“厚い”から、
“硬い”と“柔らかい”へと変わり始めた。
連式でも薄く焼ける様になった技術革新は、
逆に“厚い”という個性を失い始めた。
そこで連式が持つもう一つの個性であり、
一丁焼きでは困難な皮の“柔らかさ”に注目が集まる。
それはとても自然な流れなのかもしれない。
ふよふよと柔らかいたい焼きの腹を揉みながら、
そんな事をぼんやり考えるのだった。



価   格○つぶあん 150円

 
   
  
posted by EY at 21:34| 東京 ☀ | TrackBack(0) | その他のたい焼き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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