東京のたい焼き ほぼ百匹手帖

2014年03月22日

たい焼きの万龍【江古田@西武池袋線】

たい焼きを買いに江古田に来た。

北口から出て左へ線路沿いの道を進む。
やがて踏切に差し掛かる頃に前方に電光掲示板が見えてくる。
その堅牢な栄町本通りのゲートに至る少し手前の、
八百屋脇から奥へ伸びて行く細い路地が江古田市場通り商店会。
その奥に「たい焼きの万龍」が幽玄な佇まいで商っている。

年季の入った細い路地裏の商店街に軒を連ねる店は、
周りを囲むサイケな絵図が作り出す幻想的な空間の中で、
シートをかぶった2台の遊具を宛ら門番の様に店先の角隅に従えて、
今はただ静かに仄暗い闇を抱いて佇んでいる。
当然その店を築き上げるモノたちは其れ相応に古びていて、
せり出したオレンジ色の軒の煤け具合や、
店舗内の様々な器具の使い込まれ方も其れを物語る。

やがて赤い暖簾が下がった焼き台が設えた場所だけが、
白熱電球の暖かな色合いで明るく浮かび出ている。
そこに白い割烹着と姉さん被りのおばさんが一人、
静かに段取りを整えて動き廻っている。

時刻は午後3時半。
焼き台を覗くと既に半身のたい焼きが数尾、
腹に餡を抱えて焼き上がっている。
早速注文。
焼き上がりまでは15分程との事。
軒を借りて待たせてもらう。
店先から見る景色は密集した店舗と細い路地。
だから尚の事、立て壊した後のポッカリ空いた空間が物悲しい。
ここも嘗て訪れた幾多の戦後の闇市の雰囲気を感じさせる。

店を通り過ぎる人々は当然馴染みの人物が多く、
挨拶や軽口を二言三言交わして過ぎ去っていく。
これから夕食の買い物客が押し寄せる時刻。
やおら路地裏が活気を得ていく。
皆一様に忙しい空気を体に纏い始めて路地奥と消えてゆく。
其処に於いても尚、おばさんは再び静かにたい焼きを焼き上げる。
待つ客は焼き台後ろに置かれたアルミタッパーの
みっしりと詰まった艶が輝く粒餡を眺めて時間をつぶす。
つぶあんだけに。

などと一人しゃれている間に一人のおじさんがやって来た。
途端に店内の空気が外界と同調を始める。
慣れた感じで店内に荷を置きおばさんと歓談を始める。
先週もこんな感じだったなぁと何気なしに聞いていた会話は、
濃密な商店街と其処に渦巻く人間関係で構成されていて、
緻密な人物描写と細部にまで行き届いた再現実況で、
軒先でうすらぼけっと突っ立っている部外者にも、
大まかに状況が判る程の説明上手。


ともあれ、店舗によるキャベツの千切りのクオリティの違いと、
とある向かい合う2店舗の敵対関係は、
どちらも妻側が主導権を持っている事が判明した所で、
おばさんは注文分のたい焼きを焼き上げて、
素早い手付きでサッと包装してゆく。
おばさんに長居を詫びて礼を述べ、
受け取ったたい焼きを抱え江古田駅へと引き返し、
人通り少ないエレベーター口のエントランスで荷を開ける。

ツンととがった鼻っ面の顔が特徴的。
熱々のたい焼きはフカフカとした蒸気を全身から発している。
焼きたての皮は表面は当然カリカリで香ばしく、
中の白いフワフワはフルフルと震えるほど柔らかで、
生地自体の風味も良く出ている。

その皮を噛み締める傍から甘い芳香が口内に侵入する。
風味が先行して舌に甘味を纏わせる。
その後に満を持してやって来た餡は、
落ち着いた甘さで予想の裏をかいてくるなかなかの曲者。
餡の甘味を追いかけて食べ進めると、
最後に尾びれの発てるカリッという音と供に目の前から消え失せ、
気が付くと、いつの間にか胃袋に収まっていた。

路地裏で静かに佇む「たい焼きの万龍」は、
さながら未踏の森の奥深くに潜む池の主の様に、
ほんの僅かな時間だけ人前に現れる。
そう考えると何だか神神しく思えてくるのは、
最早たい焼きの僕と化した者の性(サガ)なのだろう。

価   格○たい焼き 100円
住   所○東京都練馬区栄町31-3
営業時間○15:00〜19:00(変動あり)
       不定休
       


posted by EY at 00:04| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 練馬区のたい焼き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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