東京のたい焼き ほぼ百匹手帖

2015年03月20日

とちぎや【下板橋@東武東上線】

     
 
たい焼きを買いに下板橋に来た。

改札を出て左へ進み踏切を渡進んだ先、
3つめの十字路にして4詰めの左折路を曲がるとある、
2軒間口がならんだ古びた建物のひとつが「とちぎや」である。

駅前から伸びる様々な商店が軒を連ねる通りは、
平日の昼前と云う事もあって人通りは少ない。
その閑散とした通りから更に外れた曲がり角の途中に、
商店街から住宅街へと至る境界のその途上。
異空間を創造する様にパーティションが店の両脇を挟み、
赤地に白文字で“たい焼”と記された幟がはためく。
交差点からも見えるソレは地味な色合いの街並みの中で、
鮮やかに目に焼き付ける様に浮かび上がる。

いわゆる住居1階店舗部分と云った区分けがしっくりくる店先は、
くすんだ白い壁と年季が入った焦げ茶色の柱という作り。
歩道に出された小さな行燈型の看板は、
毅然とした態度で今なお氷の旗印をペタリと掛けて佇む。
そこのポッカリと窓がありそのそこにカウンターが設えられ、
その枠にミッチリと嵌って保温ケースが食い込んでいる。
そしてその窓に掛けられた暖簾も、
これまた赤地に白文字で“たい焼”と記され、
かつては出窓であったと思しき痕跡を残す、
四角い出っ張りに邪魔されながらも鮮やかに映え渡る。

古びた店先に真新しく映える赤のコントラスト。
幟や暖簾を筆頭に窓に設えたカウンターや“氷”の文字、
入り口上部の“OPEN”の看板とその脇の提灯、
そしてひっそりとある郵便受けと、
シックなトーンの中にこの上なく映える赤。
その眩い空間を縫う様に数多の品書きや店側からの告知が、
過去から今に至るこの時までずっとソコに貼られ続けていて、
経年劣化で古び色褪せた風合いを醸し出している。
ソコに於いて店先にドカッと粗雑に置かれたエアコンの室外機や、
一切の装飾を排した様に其処だけ過剰に簡素な出入り口扉等は、
異質な位に静謐で無機質な存在感を醸し出しえ居る。

そんな「とちぎや」の窓枠一杯に張り出した保温ケースには、
たい焼きが正対してズラリと整列して並び、
オレンジ色の光に照らされながら道路をジッと凝視している。
たい焼きは店内でドリンクとセットで提供され、
たこ焼きは単品で店内の利用が出来る。
にしては店外にたこ焼きを主張するモノが提灯位しか無い。
一方でかき氷のラインナップは豊富に揃っていて、
サイズも2種類で挙句に店内を利用可能である。
そんなせめぎ合いの中でひときわ異彩を放つ、
おしるこの表記が目を引く結果となり、
当然コチラも店内利用可能だろうかとしばし考え耽る。

辺りは静かである。
店の周りには近隣の小学校から聞こえる子供達の歓声が響くが、
実体の伴わない声は直ぐに虚空の中へと霧散して果てる。
横の酒処の開店は夕方辺りであろう。
そしてこの二軒の両脇が駐車場という状況が更にソレを増幅させる。

そこで気付く。
この「とちぎや」に於いて電装的な設備はこの一灯のみ。
いや、そもそもこのライトは保温用であるので実質ゼロであり、
それは店内からも漏れ伝わって来ない。
ナルホドこの店には赤以上に明るいモノが無いから、
こんなにも赤が目に映えるのか。
しかしそうなるとこの静謐が別の焦燥を生む。

やってるのかな。
窓からも扉のガラス部分も一見それらは漆黒に染まり、
そこに人の気配というモノの有無を確認する事を困難とする。
すると窓の奥にある闇の中から保温ケースへと伸びる手を確認、
凝視するそばからたい焼き達が次々に隊列を組み始める。

まあ当然であるが人は居る訳である。
急ぎ窓へ近づき保温ケース越しに店内を窺うと、
薄ぼんやりと明るい店内にはおじさんがひとり、
福福と柔和な面持ちで作業をしている。
外から中を伺う胡乱な客に気付いたおじさんは、
柔和な笑顔のままコチラに対面して、
窓にスッポリ挟まった保温ケースの脇から注文を取り始める。
スパイ映画の緊迫した場面でこういったシーンをよく見るが、
その再現を今ココ下板橋の昼前の商店街で体験するとは。

素っ頓狂な感動に浸りながら早速たい焼きを注文する。
品が揃うまでの間その隙間から店内を窺うと、
窓の傍には銀色に輝く5連式焼き型が1台置かれている。
しかしカウンター式の店内をざっと見渡して、
その深層部を把握しようとも闇がその行く手を阻む。

中々に手ごわい。
その後も幾度もアプローチを試みるも深層は窺えす、
やがてたい焼きを詰め終えたおじさんが袋を手渡す。
代金を払い一先ず店を後にして商店街に近い方の駐車場で、
縄張りを荒らされて睨みを利かす猫に背を向けて荷を解く。
紙袋に入ったたい焼きを一尾手に取ると、
少々小振りで可愛らしい姿のたい焼きは、
袋を開けた瞬間から引っ切り無しに、
その全身より甘い香りを発散している。
周囲には金属工業製品の様に薄いバリが周囲を取り巻き、
不用意に手に触れた傍からパリパリと砕けて行く。
立ち昇る香りは和菓子と云うよりも可也洋菓子寄りで、
動物性たんぱく特有のまろやかな風味を湛えている。
小学校も近い事だしこの辺の工夫は、
子供へのアプローチかなと想いながら一口齧る。
フワフワとした食感の皮は厚みも想像以上に薄く、
生地自体にシッカリとしたコシがあり表面は弾力が強い。
噛み締める度にニシニシとした噛み心地が顎を伝播して、
カステラの様な風味が口内に充満する。

その中に込められた餡はそのネットリとした舌触りと、
触れた時に拡散するアズキのコクからの印象以上に、
クセの無いサッパリとした引きの良い甘さで、
甘さを湛えた皮に絡めばソコにアズキの風味を刻み付ける。
しかしそのツルリと食べ進められる潔い甘さと、
比較的小振りの食べ易い大きさに託けて調子に乗ると、
密かに隠し持っていた鋭いバリが口角に狙いを定め、
スパッと切り裂いていくので要注意。

一尾はあっと言う間。
二尾目はユックリと堪能しながら食べ歩く。
振り返る「とちぎや」には今だ静謐を保ち、
ソコには相変わらず電装による華燭な輝きは無い。
店舗周辺は今だ少しの闇を纏いながら、
商店街と住宅街というアチラ側とコチラ側を橋渡す。
そうなると「とちぎや」の存在は、
まるで時空の端境を守護している様である。

そこでハタと思う。
店先に溢れた赤は魔除けの赤なのでは無いかと。
何に対抗しての魔除けかは見当もつかないが、
小学校も近い事だし纏めて色んなモノを除けてもらえるなら、
それはそれで何かとありがたい事です。

価   格○つぶあん 150円
住   所○東京都豊島区池袋本町4-17-7
営業時間○11:00〜19:30
       土・日曜 定休
 
   
  

posted by EY at 23:25| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 豊島区のたい焼き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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