東京のたい焼き ほぼ百匹手帖

2016年03月06日

瀬田商【神泉@期間限定】

     
 

たい焼きを買いに神泉に来た。


北口駅前から踏切を越えて伸びる道を左へ進み、
大通りに出たら右へ進むと東急百貨店本店に着く。
その地下一階食品フロアの一画に、
期間限定で「瀬田商」が出店していた。


渋谷の繁華街から少し離れた場所に聳え立つ、
老舗百貨店の地下一階の食料品売り場は、
開店直後と云う事もあり何時にも増して閑静である。
日本中の有名専門店はゆったりとした空間に並び、
松濤や神山町に建つ高級住宅街のニーズに合った、
厳選された商品がふんだんに揃っている。
故に東横店に比べてそこはかとなく高級感があり、
観光客を購買層に含まない腰を据えた風格を醸し出す。


そこに突如現れた庶民菓子の代表であるたい焼きは、
高級なチョコレートやワインが並ぶフロアの片隅で、
甘くて芳ばしい香りをゆったり漂わせている。
その香りは人々の足を止めさせる魅力を振り撒き、
その姿で買い物客の目を釘付けにする。


その魅惑のお菓子を焼き上げている「瀬田商」は、
頻繁に催事やイベント等で期間出店を行うたい焼き屋で、
今回はかつてテレビでも取り上げられた逸品を引っ提げ、
この渋谷に地へやって来たという訳である。
東京近郊では埼玉県草加市の駅ビル等で購入できるが、
ここ東急百貨店本店にも度々現れては、
人々を魅了するたい焼きを販売してくれる。


地下一階イベントコーナー一杯に展開した店舗ブースは、
2尾の鯛が跳ねる赤い横断幕を纏った卓を設えて、
簾敷きの会計口を挟んで餅菓子とたい焼きが並んでいる。
餡子や黄粉を纏ったおはぎや団子といった餅菓子は、
プラスチックパックの中に並び堆く積まれ販売されている。
一方でたい焼きは古びの効いた木製の囲いに3種類、
その横に並べられたアクリルケースには1種類と、
計4種類の餡がそれぞれ木箱の中に起立姿勢で、
隊列を作り並んでいるのが見える。
定番の“つぶあん”とその双璧を成す“クリーム”の他に、
その2つが合わさった“ミックス”という餡は想定できた。
しかし期間限定で“いちごミルク”という餡は、
中々冒険心が溢れる攻めた打ち出しである。


卓の横には焼き台を設えたブースが置かれ、
赤い暖簾が掛かる向こうでは6連式の焼き型が3台並ぶ。
焼き台には半身のたい焼きに背骨の様な餡子が乗り、
今も甘く芳ばしい香りを放ち周辺を満たしている。
その奥で黒いキャップとエプロンのご店主が、
焼き台に乗ったたい焼きの焼き上がりに視線を注いでいる。


焼き型が並ぶブースの前でその様を眺め、
横目で焼き上がったたい焼きの様子を見比べる。
木箱の中は十分な品揃えである。
焼き型が閉じられたのを確認してから会計口へ向かと、
焼き場から手を休めたご店主が此方へやって来た。
たい焼きの購入を告げるとご店主は箱を用意して、
起立姿のたい焼きをそのまま箱へと詰めはじめる。
箱の中でも直立するたい焼き達の背中を確認後は、
壁に貼られた各種パネルを眺めてしばしの時を過ごす。


たい焼きを詰め終えた箱を会計口に置いて、
代金を支払い終えたらズシリと重い箱を受け取る。
ご店主の笑顔に送られ店舗前から移動すると、
階段へ至る廊下に置かれたベンチに陣取り荷を解く。


箱を開けると俯瞰視点で見えるたい焼きの姿は、
皆が皆そろって此方に背を向けている。
そこに御誂え向きに差し出された背びれを摘まむと、
指先は皮の中へと埋まりピッタリと密着する。
そのまま待ち上げると背びれが千切れそうで、
急遽左手を整列の間へ差し入れてアシストを始める。


柔らかい。
たい焼きの表面に触れた左手を皮が包み、
そのままたい焼きの内部へ沈下を始める。
慎重に持ち上げて改めて手に取るたい焼きは、
柔らかく波打って指先にシットリ貼り付く。
特に腹の部分は中の餡子がフニフニと流動して、
驚きの触感を発揮してくれる。


一口噛り付くと皮はふっくらと優しい食感で、
焼き目からは甘く芳ばしい香りが漂う。
モチモチに仕上がった表面に対する内側は、
更に柔らかくフルフルの舌触りを発揮する。
生地本来の風味であろう玉子のまろやかさと、
粉の酸味が仄かに舌を包み込む。
比較的焼き固まった鰭の角はワッフルを髣髴とさせ、
また違った歯応えを生み出し楽しませてくれる。
皮自体は薄いので少し齧れば中からは、
大量に入った餡子が満を持して解放される。


シッカリと甘味がのった粒餡は柔らかく、
滑らかな舌触りは漉し餡の域へ踏み込んでいる。
アズキの風味も濃く懐かしさも湛えた王道の仕上がりだ。
その滑らかな餡子が柔らかな皮と絡み合うと、
トロトロでアツアツの口当たりになる。
そのまま飲み物の様にゴクリと飲み込めば、
胃の底から暖かくなり軌跡からは甘い香りが漂う。


最近の皮を巡る環境は“薄い”と“厚い”から、
“硬い”と“柔らかい”へと変わり始めた。
連式でも薄く焼ける様になった技術革新は、
逆に“厚い”という個性を失い始めた。
そこで連式が持つもう一つの個性であり、
一丁焼きでは困難な皮の“柔らかさ”に注目が集まる。
それはとても自然な流れなのかもしれない。
ふよふよと柔らかいたい焼きの腹を揉みながら、
そんな事をぼんやり考えるのだった。



価   格○つぶあん 150円

 
   
  
posted by EY at 21:34| 東京 ☀ | TrackBack(0) | その他のたい焼き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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