東京のたい焼き ほぼ百匹手帖

2015年10月11日

あんず【鶯谷@山手線】

     
 
たい焼きを買いに鶯谷に来た。

北口から言問通りへ向かい鶯谷駅前交差点を渡って、
そこから先へ伸びる尾竹橋通りを行く。
歩道橋を過ぎて根岸小前交差点を右に折れ、
少し行った所に根岸たい焼き「あんず」がある。

根岸小学校沿いの細い路地は至って普通の住宅街を貫き、
その先にある古き昭和の趣が残る一画へと導いてくれる。
良い具合に枯れた趣が漂う洋食屋をはじめ、
お好み焼き屋や焼き鳥屋がヒッソリ並ぶ軒並みと、
その手前の極普通の住宅街との汽水域にあって、
明るい墨色の板壁の真新しい一軒家の一画に設けられた、
鮮やかに映える鶯色の暖簾には、
まさに杏色の文字で「あんず」と記されている。

開店時間前が迫る店の入り口は今、
ほんの少しだけ下げられたシャッターで隠されている。
薄暗がりの店内では人影が動いているのが見え、
併せて店外までほんのり漂う甘い香りに、
本日の開店準備が進められている事を確信する。

休日の午前11時前を迎える住宅街はとても静かだ。
少し開いた洋食屋の勝手口から漏れる微かな物音と、
時折囀る鳥の鳴き声以外の音は無いに等しい。
そこにポツンとたい焼き屋の開店を待つ輩は、
住宅街の“異物”として申し分無い胡散臭さである。
静かな割に人の行き来が多い細い路地で、
人々の遠慮ない視線を浴びながら待つ事数分、
入り口のシャッターをご店主が上げ切ったのを確認して、
急いで店先へと進みご店主に挨拶をしてから店内へ入る。

ダンディな風貌を湛えたご店主に注文を済ませ、
商品が揃う間にぐるりと眺める店内は、
ここ最近に歴史が始まったばかりの雰囲気が漂う。
調理スペースに揃う器具は新品同様の輝きを放ち、
店内を中央で仕切る腰の高さ位のショーケース内は、
持ち帰り用の箱で一杯に満たされている。
そのショーケースの上に乗る保温ケースの中は、
既に木枠の中で簀子に乗った数匹のたい焼き達が、
比較的スマートで薄ぺったい身体を横たえている。

保温ケースの光を浴びたたい焼きは薄黄金色で明るく、
遠目から見た質感はウレタン素材の見本品の様であり、
蕎麦せいろに乗った“天ぷら”をも連想してしまう。
それ位に淡く大雑把にいえば“白い”たい焼きだ。

一丁焼きの老舗たい焼き屋では比較的“白い”たい焼きは多いが、
それでも薄皮の其処彼処で餡子がはみ出し、
黒いコゲが出来て大小様々な斑点をこしらえてしまう。
しかしココ「あんず」のたい焼きは表面の焼き色が均一であり、
所々に浮かぶ黒い影は皮の厚みにムラが生じて出来た物で、
餡子がはみ出し焼けコゲて出来る強烈な黒さでは無い。

その余りに現実離れした“白い”輝きを放ち、
見る物の目を釘づけにするたい焼きは、
保温ケース横に置かれた焼き台で焼き上げられる。
そこに並んだ2つの6連式の焼き型は美しい銀色で、
少しの焦げ付きや澱みや曇りも無くキラりと光を反射する。
ナルホドこのマッサラな焼き型だからこそ造り得た物なのかと、
今この時にだけに生み出されかもしれない儚く初々しい輝きに、
世間の荒波に煤けた心が洗われる思いがした。

などと1人勝手に盛り上がりミソギを済ませた客をよそに、
ご店主は粛々と商品を揃え終える。
たい焼きの重さがズシリ心地良い袋を受け取り抱き金を支払い、
改めて礼を述べた後に店を出て来た道を戻る。

歩道橋の前にある根岸幼稚園に沿って設けられた、
雨上がりの上根岸公園のベンチで荷を解く。
袋を開けた途端に温かな空気と甘い香りが顔を包む。
そっと手に取るとかなり柔らかい皮の感触が、
フワフワの表面とフルフルの質感を存分に発揮する。
そしてやはり薄い。
この皮の質感でこの薄さのたい焼きとなると、
当然体内に納まった餡子の重さは大変な負担となる。
当初真っ直ぐに箱の中に並んだたい焼き達は、
嫌でも安定姿勢を取る事となり、
結果底部が広がった逆T字型となってしまった。

そこまで柔らかなたい焼きなので、
手に持てば尻尾の先端部は微かに揺れ、
その縁に着いたバリはフルフルと震えている。
指先は皮の下にある餡子の柔らかさまで確認できる。
噛り付いてみるとモチモチとした食感で弾力が強く、
コシがあって少し位力を入れても千切れない。
そして噛み締めると柔らかな甘味の中に、
小麦粉がしっかり存在する王道をゆく洋風の皮である。
これだけおやつ系駄菓子たい焼きの要素を持ちながら、
それでも「あんず」のたい焼きは皮が薄い事は、
この皮の性質があってこそなのだろう。

その皮にしっかり絡み付く餡子はネットリトした粒餡である。
口内に押し寄せてザラザラと舌を擦る感触とは裏腹に、
水分が多くて粘りも強い滑らかな舌触りを発揮する。
そこにハッキリとしているがキレの良い甘味と、
浸み込む様に広がって行くアズキの風味が追いかけて来る。
この汎用性の高そうな粒餡だからこそ、
個性的な皮の特性を損なわず自身の能力も発揮できるのだろう。

柔らかなたい焼きをフルフルと震わせて、
多くの子供が集う施設で幼い歓声を聞きながら食べる一時は、
この鶯谷の地において新たなたい焼き文化の誕生を、
リアルタイムで目撃するという大変貴重で有意義な時間となった。

価   格○つぶあん 150円
住   所○東京都台東区根岸3-11-6
営業時間○11:00〜18:00
       水曜 定休
 
   
  

posted by EY at 21:49| 東京 🌁 | TrackBack(0) | 台東区のたい焼き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月27日

サザエ 上野松坂屋店【御徒町@山手線】

     
 
たい焼きを買いに御徒町に来た。

北口改札を出て春日通り沿いを左に進み、
中央通りと交わる交差点の角に建つ上野松坂屋へ向かう。
地下1階に広がるほっぺタウンの一画にある、
7丁目おそうざい公園のA区画で営業している、
“十勝おはぎ”でお馴染みの「サザエ 上野松坂屋店」へ訪れる。

良く見れば深い焦げ茶色の木目が浮かんだ壁や軒は、
光量の少ない屋内では漆黒に見える。
その黒に浮かんだサザエ食品のエンブレムが、
スポットライトを浴びて白く輝いている。
黒と銀で構成された落ち着いた雰囲気の店舗には、
“十勝おはぎ”や“豆大福”といったお馴染みの品が並ぶ一方、
保温ケースにはまだ商品はひとつも無い。
通路に面したガラス窓の奥を覗いてみると、
生地が流し込まれて色とりどりの餡を乗せた、
「十勝おはぎ」の看板商品“大名焼”がズラリと並ぶ。
その横にある3台のたい焼きの焼き型は閉じられ、
その中にたい焼きがあるのかは確認ができない。

会計口に向かうと直ぐに店舗奥から店員さんが現れたので、
先ずはたい焼きの販売状況を尋ねてみる。
店員さんは焼き台前の店員さんをチラリと見てから、
コチラの購入個数を確認して焼き場と言葉を交わす。
5分程の待ち時間を告げられそれを承諾したら、
代金を払いスタンプカードに判子を押してもらう。

待つ間は買い物客の邪魔にならない場所で、
たい焼きが焼き上がるのを眺める。
6連式の焼き型に流し込まれた生地は真っ白で、
上に乗せられた濃い赤紫をした粒餡は、
焼き型からはみ出そうな位に大量で山盛りである。
その光景を見て“おはぎ”が乗ってるみたいだなぁと、
呑気に感心しているとしばらくしてから、
餡子の上に白い生地がトロリと掛け回される。
白から黒を経てまた白へと目まぐるしい変化の後に、
パタンと焼き型が閉じられ隙間からは白い生地が溢れる。
ジューっと生地が焼ける音が響く中で、
店員さんは“大名焼”を次々焼き上げて行き、
その合間に冷蔵庫から白く柔らかな塊を取り出して、
たい焼きの焼き型へグニグニ成形しながら押し込んでいく。

あれは一体なんだろうと考えていると、
店員さんは閉じた焼き型の周囲に着いた生地を、
ゴリゴリと勢いよくそぎ落とし始める。
周囲全てでそれを終えていよいよ焼き上がったたい焼きは、
バリでひとつに繋がった白磁の焼き物の様である。
それをひとつずつパキパキ折って切り離し、
顔の周辺に付いたバリを化粧裁ちする。
その際に6連式の最初と最後のたい焼きは、
顔では無く尻尾の周囲を化粧断ちしている事に気付く。
単なる目印なのかそれとも深い訳があるのか?
そういった謎に思いを巡らせる色々と想像を膨らませる。
切り離されたたい焼きはスタンドに並べられるが、
並べられた傍から次々に箱へと入れられる。
ズシリと重い袋を受け取って礼を述べる際に、
先程の白いグニグニしたモノの正体を尋ねてみる。
なるほどこれが“パイたい焼き”の素体かと謎か解けた所で、
再度礼を述べてから階段前に設けられた椅子へと向かう。

荷を解くと箱から立ち昇るたい焼きの芳ばしさと、
経木から漂う森の香りが周囲を漂う。
手に取った焼き立てのたい焼きは当然アツアツで、
皮の表面はカリカリしていて硬い指触りである。
型崩れ所か指の沈下すら見せない“殻”の様な焼き上がりは、
齧ってみるとガリッと音を発てて割れる程である。
その割れた所からふんわりと漂う小麦粉が焼けた馴染み深い香りは、
仄かな苦みと共に舌の上にやんわりと広がっていく。
皮は抜群の歯応えの後に細かく砕けて内部の餡子に貼り付いて、
高温を放射する餡子と口内とを隔てる防護壁となる。

焼き立てのままを維持した灼熱の餡子は、
熱と圧で締まったのか中々変容する様子を見せない。
粘度が高く保ったまま塊を維持してコロコロと転げまわり、
その度に口内のアチコチへ衝突してはヤケドを作っていく。
熱気に煽られて充満するアズキの風味と強いがキレの良い甘味は、
口内からやがて鼻腔へと漏れ溢れやがて外へ抜ける。
その際に硬いだけではない皮の芳ばしい香りも、
シッカリと主張をするのを忘れる事はない。

モダンな店構えに硬く研ぎ澄まされた皮を纏った、
大量の餡子を湛えた硬派なたい焼きは、
有名百貨店のデパ地下にあっても変わらない。
抜群の安定と品質を兼ね備えたたい焼きに感心しながら、
最後に残った巨大なバリを豪快に音を発てて噛み砕けば、
“南部煎餅”の様な粉の風味と仄かな酸味が舌を包み込む。

価   格○うす皮たい焼 140円
住   所○東京都台東区上野3-29-5 松坂屋上野店B1F
営業時間○10:00〜20:00
       元日
 
   
  

posted by EY at 21:34| 東京 ☀ | TrackBack(0) | 台東区のたい焼き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年12月14日

キクヤパン店【仲御徒町@東京メトロ日比谷線】

たい焼きを買いに仲御徒町に来た。

御徒町が含まれた駅名ならどの路線でも良い。
一先ず御徒町台東中学を目指す。
その裏手にある御徒町公園の北側。
映画のセットの様な「キクヤパン店」がある。

ガラスの引き戸の奥に縁日の屋台がすっぽりと納まり、
銀色に輝く、比較的真新しい焼き型を設えた店先で、
おじいさんが一人静かに焼いている。

今や「キクヤパン店」の“パン”の部分を担っている、
昭和風味溢れる造形のパンダ焼とたい焼きが、
既にショーケースに収められた。

早速注文をする。
おじいさんはゆっくりと注文を聞き、
ゆっくりとたい焼きを仕分け、
ゆっくりと袋に詰めて、
ゆっくりとお会計を済ませる。
店の中をゆっくりと時間が流れる。
それをこちらものんびり待って、
のほほんと眺めていれば良いのである。

受け取ったたい焼きを、
公園の石垣に腰掛け先ずは鑑賞。
おじいさんがゆっくり焼き上げるたい焼きは小ぢんまりしている。
造形は鋭敏で角が決まっていていい面構え。
おまけに色白の上品な仕上がり。

一口齧る。
半分になった小ぶりな胴体を覆う皮は、
ふんわりとしていて弾力に満ちた優しい口当たり。
フィナンシェにも通ずる食感が何とも洋菓子的。
甘味も感じて総じてモダン。

中の餡も甘すぎない。
洋菓子然とした此の小さなたい焼きに
和菓子の上品さと奥ゆかしさを加味している。
贈答品にしたい万人向けの逸品。

たい焼きを食べ終える頃、
おじいさんはゆっくりと焼き台に向かって、
次に焼き上げる準備をしている。
その一角だけ残った昭和の風景の中でゆっくりと。

価   格○たいやき 60円
住   所○東京都台東区台東4-7-8
営業時間○11:00〜生地がなくなるまで
       無休
       


posted by EY at 23:03| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 台東区のたい焼き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。