東京のたい焼き ほぼ百匹手帖

2015年11月22日

けんたろう3000.com【久米川@西武新宿線】

     
 
たい焼きを買いに久米川に来た。

駅北口から出ると目の前はロータリーが広がる。
左手へ目を向けると緑色の鉄筋で築かれた、
久米川駅前パーキングの巨躯が見える。
交番前の横断歩道を渡り、
新青梅街道と交わる通称北口交番通りへ出る。
歩道脇にあるパーキング上階へ至る階段の下に空いた、
僅かな場所でケバブ販売店と寄り添って建っているのが、
お目当ての「けんたろう3000.com」である。

合板製の壁にはアルミサッシのドアを設け、
トタン屋根の上に大きなタペストリー看板を掲げている。
階段二本分の幅に身を潜める様に建っている店舗は、
広さは恐らく6畳位の大きさだろう。
其処をケバブ店と2分割して
車道は勿論の事ながら歩道にもはみ出さず、
立て看板や幟が立て営業をしている。
その横に接したパーキング敷地内の小部屋の前に、
小さな縁台まで置かれている。
そもそもこの場所は商用地なのかと疑問を持つが、
交番の目の前で商売しているなら問題ないのだろう。

そんな事を考えながら店舗の近くまで行く。
営業時間までは少しあるが窓は開けられ店内は明るい。
パーキングの階段入り口横にある窓には保温ケースが置かれ、
裾壁には品書きが隙間無く貼られている。
軒下に赴き店内を窺うと中はケバブ店と繋がっていた。

このケバブ店は久米川はもとより、
東村山界隈では名の知れた名店である。
パキスタン人のご店主が切り盛りされている。
先刻予想した通り約6畳間程の空間に、
商業用の結構大きなシンクや調理器具が置かれている。
なので店内の可動域はかなり少なく、
行き交える程のスペースは人ひとり分がやっとである。
当然たい焼きの焼き型も6連式が3台設えられ、
今は2台が稼働している様子である。
その前に立って温度の確認を繰り返しているのは、
穏やかな笑顔を湛えた恰幅の良い外国人の方が一人。
当然この方がケバブ店のご店主であるが、
一方で店内に「けんたろう3000.com」的な雰囲気は無い。

取り合えず笑顔のままコチラを見つめるご店主に、
本日のたい焼き販売について伺ってみる。
ご店主はたい焼きの焼き型に手をかざし、
少し時間が掛かる旨をカタコトの日本語で返してきた。

「10プンクライカカリマス。」

成程あと10分もすれば「けんたろう3000.com」の責任者が現れ、
たい焼きの販売を始めるのであろう。
了解してその時が来るのを待とうと店先に立っていると、
背後の冷蔵庫から材料を取り出して此方を見て、

「ナンコヤキマスカ?」

その途端に好奇心が急上昇して臨界点を突破する。
もしやと思っていたことが現実となり、
急いで必要数を告げて宜しくお願いしますと念を押し、
期待に胸を膨らまして店内の焼き型に視線を送る。

外国人のケバブ屋さんがたい焼きを焼く。
サッと焼き型に油を馴染ませてた後に、
慣れた手つきでチャッキリを扱い生地を落とす、
パキスタン人のご店主が醸し出す静かな佇まい。
対して其の世にも貴重で稀な現場が目の前で行われ、
その非日常的光景を目の当たりにして、
ワクワクが止まらずにニヤけた顔で焼き型周りを凝視する客。

流し込まれた生地に続いて餡差しに餡子を詰めて行く。
その堂に入った澱みの無い所作を眺め、
此れは頻繁にたい焼きを焼いていらっしゃると想像する。
餡子を詰め終えたご店主はサクサクと餡子を切り分けて、
焼き型に満たされた生地の上に餡子を次々乗せて行く。

しかしその量が多い。
遠目から見たなら“ぼた餅”があるみたいに、
濃い赤紫色の塊が白い海にドスンと置かれている。
餡子好きには堪らぬ絶景だが冷静になって考えると、
あんな大量の餡子が全てたい焼き内部に納まるのか、
多少不安になってくる位大量である。

そんな心配を余所にご店主は焼き型の反対側へ生地を落とす。
そして一呼吸あって焼き型の握りを手に取り、
直ぐに躊躇なくバタンと焼き型を閉じた。

早い。
閉じ口からダバダバと生地が漏れて、
アルミホイルで覆われた焼き台の下へ零れ落ちる。
生地自体に粘度があるのか漏れ出た量は思いの外少ないが、
その代わりに濃い赤紫色が所々でウニューっとはみ出す。
焼き型の縁で徐々に白く乾き始めた餡子を眺め改めて思う。

矢張り納まりきらなかったか。

とはいえ閉じてしまえば後は焼き上がりを待つだけである。
生地と餡子が焼ける甘く芳ばしい香りが通りへ漂い、
焼き型に沿って垂れて行く生地の色が徐々にキツネ色に変わる。
その間ご店主に代金を支払い“ケバブ”の質問をしつつ、
のんびり世間話をしながら待つこと数分でたい焼きが焼き上がる。

焼き上がった6連式のたい焼き達は繋がっていて、
ご店主がトングで端を摘まんで持ち上げると、
6匹全てがズラリと揃って持ち上がる。
焼き型に沿って垂れた生地も焼き型から離れて、
余剰した広大なバリ部分の端に、
L字型となった立体的な形を作り上げる。

次にご店主は繋がった6匹のたい焼きを、
片手に持った鋏でたい焼きを切り分けて行く。
蒸気の向こうでジョキジョキ切り分けられるたい焼きは、
まるで焼肉屋の網の上で捌かれる骨付きカルビである。
ケバブ屋でたい焼きを骨付きカルビの様に扱うという、
予想もしなかった混沌とした光景を目の当たりにする。

大雑把に切り分けられた羽根と呼ぶには広大すぎる、
身体と変わらぬ大きさのバリを携えたたい焼き達が、
次々に焼き型の上へ無造作に置かれる。
ご店主はそのラフにカットしたたい焼きをトングで摘まむと、
手製のひし形の穴が幾つか開いた紙袋の中へ、
巨大な“羽根”が付いたままのたい焼きを入れ始めた。

化粧断ち一切ナシ。
焼き台に沿って垂れた立体的なL字部分もそのまま、
ありのままの姿で余す所無く詰め込んで行く。
予想を超えた大らかさである。
そんな凡そたい焼きが入っているとは思えない、
ゴツゴツした紙袋を手提げ袋に入れて手渡される。

長居を詫びて礼を述べご店主の笑顔に送られ店を後にする。
そのまま久米川駅前パーキングを横切り、
新青梅街道から別れた側道に面した壁に陣取り荷を整える。
ゴツゴツした紙袋から取り出したのは、
たい焼きと云うより鯛のワンポイントが付いた、
巨大で高温でしかも非常に重たく、
それでいて薄くてとても脆い“瓦煎餅”である。
指先のカリカリした触感は簡単にひび割れ、
紙袋の中へバラバラと音を発てて落ちて行く。
何はともあれ先ずはその広大なバリから始めるしか無く、
ガブリと噛み付くとザクザクと砕けて弾け飛び、
少し厚めに作られたモナカの皮的な乾いた歯応えが伝わる。
その食感の所々に芳ばしさが加わり、
より一層の歯応えを造り上げている。
断面を見ると3層構造になっていて、
はみ出た餡子が皮の生地に挟まれ押し潰されて、
焼き固められた事により餡子内蔵の“羽根”という、
予想外の副産物を生み出している。

其れを超えた所に在るたい焼き本体を覆う皮は、
連式にしては薄過ぎる焼き上がりになっている。
押し出される程に餡子が入ったたい焼きであるから、
当然の事であるが皮は薄い事は想像出来たが、
此の薄さは一丁焼きすら超えた存在である。
誤解を恐れず云うならば、
餡子に着いたカサブタといった風情で、
皮にあって然るべき柔らかい部分が無い。

その餡子は粘りがあしながらも滑らかな舌触りで、
甘さが控え目でありながらアズキの風味は豊か。
ドッシリ重たい口当たりで粒立ち舌を転がる仕上がりで、
後味もサッパリとして残り香の優しさが口内を撫でる。

そんな上等な餡子が隅々までミッシリと詰まっている。
それどころか皮の間にまで入り込んでいるのだから、
たい焼き全体からアズキの風味が漂うのである。
皮自体にもほんのりと甘味があって、
当然粉の風味もしっかり備わっている。
加えて焼きの度合いによって苦みも加わって、
広大なバリの至る場所で様々な味わいが体験できる。
結果として他に類を見ない味わい豊富で、
突き抜けた個性を持ったたい焼きを造り上げているのだ。
はり既成概念を破壊するのは広い視野なのだろうと、
回転すればフワフワ浮遊しそうなたい焼きを見て思う。
東京が誇るたい焼きのグローバル化は郊外から始まると、
豪快で広大で物凄いたい焼きと出会い思うのだった。

価   格○小倉あん 140円
住   所○東京都東村山市栄町1-2-1
営業時間○11:00〜21:00
       水曜 定休
 
   
  

posted by EY at 23:47| 東京 ☀ | TrackBack(0) | 東村山市のたい焼き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月22日

狭山そば 東村山店【東村山@西武国分寺線】

     
 
たい焼きを買いに東村山に来た。

ホームから跨線橋へ上がり改札へ向かう途中の、
コーヒーショップとの並びにある「狭山そば 東村山店」には、
“店長のおすすめメニュー”としてたい焼きも売られている。

全面ガラス張りの店舗に両開きのガラス戸前に紺色の暖簾を提げ、
駅の立ち喰い蕎麦としては今風のモダンな店構えの、
そこかしこ至る所に見受けられる異物感の数々。

それはガラス戸脇の巨大ソフトクリームとその幟だったり、
ガラス戸に貼られた張り紙に記された、
“狭山そばおすすめ!!シルクアイス”の文面と商品写真だったり、
そして何よりも店舗出入口横に設えられた小窓の存在だったりする。

白い壁面の上部にはたい焼きのイラストと文字が貼られ、
その下にポカリと開いた窓に掛けられた、
たい焼きの紅い文字とイラストの記された暖簾の奥は、
数名の店員が慌ただしげに行き交う調理場と直結していて、
蕎麦の注文を次々こなしながら時折立ち込める湯気に霞んでいる。

その取り合わせに感心している間にも、
たい焼きを買い求める客が頻繁に訪れている。
さすが“店長のおすすめメニュー”と謳う商品名だけあり、
ココ「狭山そば 東村山店」のサイドメニューとして、
確固たる地位を築き上げている様である。

何時までも物欲しげに眺めているのも何なので、
小窓に近づいてたい焼きの状況確認に入る。
カウンターが通路側に配置され奥まった形の窓口の更にその奥には、
丸と鯛の焼き型が並んで置かれている。
各々に現在制作中のモノは無く窪みは空の状態で、
両者を隔てる仕切りの上に置かれた金属のタッパーに、
布を掛けられ安置されているたい焼きが十数尾確認できる。

たい焼きだけでなく今川焼まであるとは贅沢な話である。
ソフトクリームと併せてこの品揃えは、
いわゆるデパ地下のフードコートに匹敵する布陣。
駅の立ち喰い蕎麦屋の意気込みに只々関心するばかりである。

図らずも東村山駅構内は「狭山そば 東村山店」とコーヒーショップが、
和と洋の軽食文化を互いに補いながら高めい、
ふいに訪れた客の様々なニーズに応える事が可能な、
巷に溢れる百凡の飲食街に勝るとも劣らない、
軽食フードコートスペースとして成り立っているのである。

などと取り留めの無い思いを巡らす事が出来る位に、
今、店内の蕎麦関係は大忙しの様子。
未だにコチラに気づく気配は皆無であるので、
後続に客もいないので改めて店頭を見まわす事にする。

会計口横の布を被った数十個の今川焼が置かれている。
注目の“狭山そばおすすめ!!シルクアイス”の張り紙は、
目の前の“立ち喰いそばうどん”の幟のせいで良く見えない。
その張り紙から少し目を上に上げた所に記された、
暖簾に隠れていてよく見えなかったこの店の営業時間に目が止まる。

営業時間:7:00〜21:00

駅構内の立ち喰い蕎麦としては至極真っ当な営業時間であるが、
事たい焼きとなると話は大きく違ってくる。
とはいえモノはたい焼きであり所謂嗜好品の範疇である。
朝の7時から売り買いする類のモノでは無い。
そう強引に自分に言い聞かせていると、
調理場のおばさんがコチラに気付き、
テレビドラマの様に手拭いで手を拭きながら近づいて来る。

早速注文をしてタッパーから袋に詰めようとするおばさんに、
此れまでに浮かんだ疑問のいくつかを尋ねてみる。

たい焼きは何時から焼いてるんでしょうか?

おばさんはたい焼きを袋に詰めながらコチラを見遣り、
満面の笑みを顔一杯に湛えてにこやかに答える。

8時からです。

色々なモノが心の片隅や奥底で萎えて行くのを感じる。
これは今現在どころか未来永劫に至るまで、
焼きたて出来たてのたい焼きに有り付く事は、
それこそ「狭山そば 東村山店」の店員になる他は望めない。

そこで一度思い返す。
ココは軽食フードコートスペースなのだと。
フードコートのたい焼きに焼きたてを求めるなど愚の骨頂である。
数多のニーズに迅速に対応する事で、
利用者に時間的満足感を味わってもらってこそ、
フードコートの真骨頂であり優位性でもある。

と、数分前の自分とは若干矛盾が生じてはいるが、
それはさて置いておいて愚にも付かない別の疑問を尋ねてみる。

このたい焼きに蕎麦粉は使ってますか?

おばさんはビニール袋に紙袋を入れる手を止めて、
虚を突かれたような呆けた顔をコチラに向けて答える。

蕎麦粉は…。

答えに詰まったおばさんは徐に調理場へ振り返り、
湯気の向こう側で作業中の同僚のおばさんに尋ねる。

このたい焼き蕎麦粉使ってるっけ?

鍋をかき回しながら立ち昇る湯気を避けつつコチラに顔を向け、
同僚のおばさんは大きな声で明瞭に答える。

使ってないよ!

予想通りの解答を得て一先ずは疑問を解消出来た事に満足して、
忙しい最中に余計な手間を取らせてしまった事を詫び、
おばさんに代金を支払った後に袋を受け取り窓口を離れる。

跨線橋の1番ホームに面した突き当たりの窓に陣取り、
早速にたい焼きを取り出そうと指を掛けると、
ズシリとした重さが圧し掛かってくる。
予想外の躯体に驚き取り出してみるたい焼きは、
結構な厚みがあり中々にボリューミー。
アツアツとはいかない迄もまあまあな温度も指に伝わる。
早速一口齧ってみる。

フカフカの皮は口に入れて噛み締めた瞬間にペシャンコになり、
モチモチとして口内の至る所に入り込んでくる。
そして噛みしめる度に粉の風味が広がりやがて鼻に抜けて行く。
一方餡はネットリとしたペースト状の形態で、
甘さも風味も想像通りの仕上がりで納得の味わい。
江戸前の濃い蕎麦汁にも負けないであろうコッテリとした甘さで、
かなりの食べ応えでズシリと胃袋に満足感を与える様は、
まさにフードコートに於ける王道の駄菓子たい焼きである。

このまま引き返すのも何なので改札を出て西口を目指す。
東村山を東京一有名な地方都市に押し上げた、
かの地の名士にあやかった土産物でも買いに行こう。
何せたい焼き食べてニヤ付いている輩は、
傍から見たら十分にその範疇に分類されるだろう。

そうです、ワタシも変なおじさんです。

価   格○つぶあん 120円
住   所○東京都東村山市本町2-3-32
営業時間○7:00〜21:00(L.O.20:30)※たい焼きは8:00から
       無休  
 
   
  
posted by EY at 23:08| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 東村山市のたい焼き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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