東京のたい焼き ほぼ百匹手帖

2014年06月28日

薄皮たいやき みづほ 田無店【田無@西武新宿線】

     
 
たい焼きを買いに田無に来た。

南口に出る。
狭い駅前広場を左に折れる。
すると見逃してしまいそうな場所にポツンと在るのが、
「薄皮たいやき みづほ 田無店」である。

間口1間程度の店頭は紫色の暖簾を提げてた窓口以外の、
利用可能な場所をフルに使って取扱商品の掲示にあてている。
その中には通常のたい焼きに混ざって、
今年の夏の猛暑を乗り切る為の切り札として、
“夏鯛スイーツ”と命名された乳脂肪分をタップリ使用した、
今風な商品が幾つも貼られている。

良くある“ソフトクリーム”や“かき氷”といった、
たい焼き屋定番の夏の商品は見当たらない。
どこまでもたい焼き屋であるという意思表示であると、
勝手に解釈をしてひとしきり感心してみる。
もしかしたら店舗が狭いからかも知れないが。

そんな「薄皮たいやき みづほ 田無店」の店先は、
生憎の雨に関わらずことのほか賑わっていた。
人数はわずか4名程だがそのうち3名、
つまりは75%が女子高生である。

誰が言ったか知らないが
女3人寄ったら
カシマシイとは愉快だね

昔の人はよく言ったもんである。
期せずして女子高生過多に陥ったこの狭い店先は、
女子高生達が発する“華やぎ”の振動が周囲を伝播して行き、
徐々に侵食して彼女等の周囲に目に見えない障壁を発生させる。
それは駅前の細い路地の一画などあっと言う間に支配下に治め、
他者の侵入や介在を機敏に察知するセーフティスペースとなる。

今やこの狭い店先は教室であり、
女子洗面所であり、
女子更衣室であり、
彼女等の部屋である。

そんな彼女達の発する“波動”と彼女等自身の遮蔽により、
店内はハッキリ窺えないが中ではおじさんが一人、
切り盛りしているのがボンヤリと見える。

やがて店先に居た25%を担っていた女性客が、
袋を受け取って“波動”の浸食から離脱して行く。
店先は今や女子高生のみの超飽和状態。
それを誇示するかの様に一層に大きく、
楽しい語らいの声は細い路地の一角を響き渡る。
そんな不可侵な空間に踏み込んでくる胡乱な輩が一人。

気配を察知してピタリと会話が止まる。
瞳だけがコチラを一斉に向く。
顔に浮かべた笑顔はそのままに。
やがて警戒は解かれて視線は再び仲間同士を行き交い、
会話のトーンも次第に回復してゆく彼女等の横で順番を待つ。

店先に置かれた焼き型は閉じられている。
彼女等の注文の品はここにあるらしい。
ざっと店内を見渡してみるが他の商品が見当たらない。
ただおじさんが忙しげに行き交うのみである。
ただその動きからはアリアリと焦りが窺える。
慌てふためいている。
しかしそれも致し方ない事。
恐らくは在庫の無い商品の注文だったのであろう。

既に閉じられた焼き型。
という事は最早仕上げ段階に突入している。
そうなるとかれこれ5分以上経つ事になる。
恐らく先に離れた女性客が受け取った商品は在庫分で
そうなると店側的には順番飛ばしという負い目を背負う事となる。
その負い目に加えて折しも外は生憎の雨である。
軒の庇があるとはいえ雨の中待たせるという、
これまた店側からしたら負い目と取れる事項である。

そして一番の焦りの要素はオーダーが女子高生からという事。
只でさえプレッシャーが強い存在である女子高生が、
注文して5分近く待たされるのである。
そのプレッシャーは秒刻みで増大しておじさんの全身を蝕み、
熟練工の技量すら萎縮させてしまう事もあり得るのである。
そして何より“おじさんvs女子高生”という図式の食い合わせの悪さ。
これこそ“ヘビに睨まれたカエル”である。
援助交際も痴漢冤罪もデート倶楽部もガールズ・バーも、
その多くが“おじさんvs女子高生”という図式が数多生み出した、
日本の文化・風俗史の暗部と言える。

そんな妄言を心の中で繰り広げるボンクラな脳ミソを、
店内から聞こえる壮大で断続的な金属音が揺り起こす。
何かを溶いている撹拌音。
やがておじさんが焼き台傍にやって来て焼き型を開く。
中には継ぎ目から色々はみ出たたい焼きが一連。
その正体を探りあぐねている客を余所におじさんは、
空になった片側の焼き型に何かを流し込む。
溶き卵だ。
どうやらその正体は食事系たい焼きの様だ。

しかしその手つきがイマイチ覚束ない。
目を移すと女子高生達が会話を止める事無く、
おじさんの動向を獲物を狩る捕食者の視線で窺っている。
そんなおじさんに一際同情しつつも、
これは日を改めた方が良いなと思い立った矢先、
溶き卵を流し終えたおじさんと目が合う。
その顔に一瞬躊躇したような表情が浮かんだ様に見えたのは、
おそらく気のせいだろう。

こちらに向き直りおじさんが注文を促してくる。
それではと注文をお願いする。
おじさんはしばらくコチラを見て立ち竦くみ、
その後はじかれた様に店の奥に消えていった。
何やら金属が床に散乱する音が聞こえ、
やがて現れたおじさんの手には木の食器立てに収まったたい焼き。

時刻は午後1時半過ぎ。
何時焼き上がったモノかは不明だが他のたい焼きがない訳は無い。
願わくばここ最近に焼き上がった事を願うばかりであったが、
食器立てに収まるたい焼きの羽根はプルプルと小刻みに震えている。
時間とは残酷なモノである。
あの「薄皮たいやき みづほ」が誇るパリパリの羽根が、
豚のモツの様にプルプルと震えているのである。
水蒸気を水分に変換した皮が郷愁を誘う。

しかしおじさんはある秘策に打って出る。
もう片方の焼き型を開いてプルプルのたい焼きを並べて、
たい焼きの再加熱の準備に取り掛かった。
再加熱と圧をかけて皮内部の水分を飛ばす算段であろう。
これをやれば瀕死のたい焼きの蘇生が出来きて、
焼き立て然とした風合いが生まれる。

しかしおじさんは焦っていた。
反り返ったり折れ返ったりしている羽根をそのままに、
直ぐ並べて直ぐ閉じてしまった。
そしてものの30秒位焼き型は開けられて、
いつの間にか用意されていた紙袋に入れられて、
手提げに納められて客に渡す。
その顔に一瞬謝意を表すような表情が表れた様に見えたのは、
おそらく考えすぎだろう。

何はともあれおじさんに礼を述べて店を離れる。
女子高生たちのおしゃべりは尚も続いている。
もはやコチラを窺う事も無い。
駅へ引き返して階段を上がった先にある謎の窪みに陣取り、
外でも眺めている体でたい焼きを取り出す。

先程までのプルプルは消え去りピシッとした羽根になっている。
あの焼き型の蘇生能力は恐るべきモノがある。
一度あそこにご飯を詰めて、
たい焼き型の焼きおにぎりが作りたいものである。

とは言ってもやはり皮の温度はアツアツとはいかない。
皮の食感も一口齧るとワシワシと音を発てながら、
ブチブチ千切れる様な食感は最早致し方ない事。
それでも「薄皮たいやき みづほ」の皮の風味の片鱗は、
羽根の端のカリカリと軽やかなs歯応えに残っている。

しかし一方餡の方は何故かヤケドしそうな程の熱を保持。
漉し餡の様な滑らかさのサラリとした甘さの餡が、
アツアツのままで存分に堪能できる不思議。
皮の温度と餡の温度に差がでるのはその形状故かも知れないが、
この餡が味わえたので細かい事は気にしないでおこう。

アイロン掛けの様に織り目がついた羽根とか、
ぶれた様な不自然に縁どられた太い輪郭とか、
皮の表面に斑に埋まった皮の焦げた欠片とか、
この餡の風味の前にあっては詮無い事である。

価   格○小倉あん 130円
住   所○東京都西東京市南町4-1-15
営業時間○11:00〜19:00 ※売切れ次第終了
       無休  
 
   
  
posted by EY at 23:00| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 西東京市のたい焼き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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